第1章、付加価値論
はじめに
序論で、「社会的再生産とは生産・流通・販売の循環である」と述べた。第1章の目的は、生産価値(剰余価値)の生産、流通、販売の各工程との関係を解明することにある。それを踏まえて、第2章で現代社会における循環を可視化したモデルを提示する。
(1)生産と価値の関係
生産とは、素材が本来もっている価値を“取り出し”、“使える形にして”、そして“社会に届く形”にすることである。
1-1、価値を取り出すとは?
価値を取り出すとは、今日の生産では<素材の生産材化>を意味する。例えば、「レアメタル(希少金属)」を「コモンメタル(一般的な金属=生産材)」して利用可能とすることなどである。これによって、レアメタルの価値は、社会が利用できる価値に相転移する。言い換えれば、価値を取り出すとは<素材価値の相転移を実現する>ことに他ならない。
1-2、使える形にするとは?
使える形にするとは、相転移した素材価値に用途という形を与えることである。例えば、レアメタル、特にタンタル(Ta)は、高性能コンデンサに使われタンタルコンデンサとしての形を獲得する。このように使える形にするとは、素材の基幹部品化も意味する。この基幹部品は、さらに電子制御ユニットに組み込まれ、最終的にはスマートフォンやパソコン、自動車という最終形態の一部となる。
1-3、社会に届く形にするとは?
スマートフォンやパソコンは、製造工場から直接に各家庭に届けてもその価値を発揮することはできない。スマートフォンには、Operating Sysytem(OS)を搭載しないと只の箱に過ぎない。このスマートフォンを動かす基本ソフトウエアーには主にiOS(iPhone)とGoogleのAndroidがある。PCのOSには、Windows、macOS、Chrome OS、Linuxがある。これらは、PCが用途に合わせて選ばれることを可能にしている。社会に届く形にするとは、生産工程における素材価値の“可用化”の仕上げである。
(2)付加価値とは?
以上のことから、付加価値は次のように定義される。
付加価値とは、素材が本来もっている価値が、製造・流通・販売という工程を通じて“取り出され”、“使える形にされ”、そして“社会に届く”ことで可視化された価値である。つまり付加価値とは、価値が工程の中で“可用化”されていくプロセスの総体である。つまり、工程とは、新たな価値の付与装置ではなく変換装置である。
価値と労働の関係について、補足しておく。コンビニのおにぎりはほぼ全自動で作られている。道の駅のおにぎりは手作りだが、価格はほぼ同じである。価値は労働ではなく、素材価値の可用化の程度で決まるということだ。
(3)巨大な価値変換装置への進化
最後に、生産、流通、販売の各工程が連結した巨大な価値変換装置へ進化しつつあるーそのことが製品の陳腐化対策に見て取れることを指摘しておく。
生産工程で生み出された付加価値は、その瞬間から陳腐化していく。まず、製品の品質そのものが劣化していく。製品の形態そのものも劣化していく。製品と顧客ニーズとの乖離も拡大していく。これは、生産工程だけではなく流通工程と販売工程にとっても死活問題である。3つの陳腐化に対応する付加価値の継承と発展は、次の3つに整理される。
1) 品質の維持と向上(コールドチェーン)
コールドチェーンは、生産された価値が社会に届くまでの間に劣化しないようにする「価値維持装置」である。生鮮食品・冷凍食品・医薬品など、温度変化で価値が失われる商品を、低温環境で一貫して管理することで、品質を保ち、廃棄を減らし、価値の陳腐化を防ぐ。これは、価値の可用化を“社会に届く形”で完了させるための基盤であり、現代の流通・販売における最重要インフラとなっている。
2) 製品モデルの改善(サービス化・モジュール化)
製品の形態は時間とともに陳腐化する。これに対処するため、企業はアジャイル開発、モジュール設計、サブスクリプション化など、製品提供の仕組みそのものを更新している。これは、製品を“売って終わり”にせず、継続的に価値を再生産する仕組みであり、価値の可用化を「時間軸の中で維持・更新する装置」として機能する。
3) 顧客ニーズの反映(PB化・AI需要予測)
価値と顧客ニーズの乖離は、価値の陳腐化の最終段階である。これに対して、AIによる需要予測、顧客データ分析、PB(プライベートブランド)開発などが進んでいる。これらは、顧客の変化をリアルタイムで捉え、価値の可用化を“顧客側から再設計する装置”として働く。
品質の維持と向上、製品モデルの革新、顧客ニーズの反映。このいずれのテーマも各工程が緊密に連携して取り組むべき課題になっている。
むすび
剰余価値の構造式は、次のように書ける。
価値=𝑓(素材価値の可用化)
今、この式を手に入れた我々は、付加価値が可用化プロセスの総体であることを知った。この可用化が、社会的再生産の循環を静かに動かしている。
