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【介護】要介護5の妻と生きる


 在宅介護626日目の記録と考察

 本稿では、「在宅介護のスタイル設計と実践の方向性」には踏み込まない。なぜなら、在宅介護のスタイルは人それぞれだからだ。ここでは、私自身が悩んだこと、疑問に思ったことをいくつか示すに留める。読者の対象は、主に要介護5レベルの在宅介護関係者である。

 ◇◇◇◇◇

 老健入所後、妻は車椅子に座れなくなった。お尻に褥瘡ができ、穴があい
た。手は上下左右に1mmも動かせず、両足も動かなくなった。そして、妻は寝たきりになった。もはや、自分の名前も私の名前も思い出せない。面会した子どもたちの顔も忘れた。どこに住んでいたかも思い出せない。何人かのケアマネージャーからは、在宅介護を諦めるようにアドバイスされた。しかし、私はトイレ・洗面所・お風呂の一体化工事を行って退路を断った。

 数ヶ月後、妻は我が家へ帰ってきた。ベッドに横たわり、寝返りすら打てない。要介護5と判定された。そんな妻の在宅介護も626日目を迎えた。

訪問看護師:「久しぶり。私を覚えている?」 妻:「覚えているよ。もちろん。」

 今日、妻は三ヶ月ぶりに会った看護師さんとのおしゃべりを楽しんだ。ゴールデンウィークも終わる。明日からは、また廊下往復ウォーキングの自主リハが始まる。

◇◇◇◇

1.要介護5と老健の現実

 全国の老健(在宅復帰を目指すリハビリ施設)は、今きわめて厳しい経営環境にある。消費税減税は、その経営悪化に追い打ちをかけている。

赤字施設の割合:31〜49%  

 福祉医療機構(WAM)では31.3%、厚労省の2024年度調査では49.3%が赤字。特に「基本型」ほど赤字割合が高い。

収支差率(利益率):平均マイナス1.1%  

 厚労省の令和5年度調査で初のマイナス。最新推計でも0.6%前後と、ほぼ限界。

 この数字が示すのは、老健は「要介護5の手厚いケア」を構造的に提供できないという現実である。

(1)50人に対して食事介助者ゼロ

 最大限の人員配置をしても、食事介助者を置く余裕はない。巡回監視者が1人いるだけで、他のスタッフは準備と事務作業で手一杯。

(2)50人に対して身体リハビリ担当3人

 計算上、週に20分×2回のリハビリでも人手が足りない。スタッフを倍増しない限り改善しない。しかし経営がそれを許さない。結果として、要介護5はリハビリ対象から外されやすい。

2.老健は、要介護5を置き去りにする

 自力で食事ができない、立てない、歩けない要介護5は、どうしても後回しになる。その結果、

  1. 栄養不足で体力が急速に低下
  2. 寝たきり化
  3. 運動機能と認知機能の同時低下

という悪循環が起こる。「寝たきり老人養成所」と揶揄される所以である。強調しておくが、これは老健の責任ではない。日本の老人福祉政策の構造的欠陥である。

3.老健時代にやっておくと有効な2つのリハビリ

 在宅介護を始めて痛感したのは、次の2つが残っているかどうかで難易度が大きく変わるということだ。

  1. 腕の力
  2. 立つ力

 この2つが残っていれば、以下の動作が一気に容易になる。

  1. 車椅子への移乗
  2. 食卓までの移動
  3. トイレまでの移動
  4. 入浴

 すべて「立つ+横移動」の組み合わせである。支えられ立ちができ、介助者の肩や腕をしっかり掴めるかどうかが分岐点になる。

4.ムース食・ソフト食は必須ではない

 老健では「在宅介護ではムース食が基本」と指導された。我が家でも5万円分のムース食を準備したが、妻は一切受け付けなかった。無理に食べさせても一日125カロリーが限度。「このままでは死ぬ」と思った7日目、妻は突然、私の夕食を横取りして食べ始めた。生への執念だった。翌日、ムース食はすべて廃棄した。

(1)咀嚼と嚥下は不離一体

 「噛めば飲み込む」という反射を信じ、厚さ2mm・20mm角のリンゴ片を用意。これを口に含ませる方法で、一ヶ月ほどで普通食に復帰した。

(2)老健と在宅の決定的な違い

  • 老健:自力摂食
  • 在宅:他力摂食

 在宅では「好きなものを食べさせてもらう」でも全然OK。「介助過多は自立を妨げる」は、無視していい。メニュー選びの基準はただ一つ。

妻が欲するかどうか。

 「家で美味しいものを食べる」-これが在宅介護のスタートであり、運動機能と認知機能の回復を促す。

5.リハビリ計画は白紙でいい

 在宅介護開始時に立派なリハビリ計画書は不要。白紙で構わない。大事なのは、トイレ誘導に小さな”ながらリハビリ”を組み込むこと。

(1)”ながらリハビリ”の例

  • 掴まり棒を使ったスクワット
  • 乾燥時間を利用した発声練習
  • その場足踏み(写真)
  • トイレの後に遠回りして戻る

(2)無理はしない

  • 最初は週に3回から開始
  • 増やすのは週5回が限度
  • 土日は完全休養日とする

 筋肉は休むことで回復していく。

 この”ながらリハビリ”を続けると、長期的に驚くべき効果が出る。なお、市条例には「決めたことはやりましょう」とは書かれていない。やりたくない時は、堂々とさぼる。それが、続けるを支える。

(3)理学療法士は体の調律師

 訪問リハビリを主に担当するのは理学療法士。彼らは、立つ・歩く、座る、寝返るなどの動作を支える体づくりを行う。寝たきり生活で固くなった体の調律師である。

 トイレ誘導の際に行う2分程度の廊下往復ウォーキング。僅か2分、されど2分。だが、一日に数回、月・水・金あるいは月・火・水・木・金と行う反復性と継続性は、諸刃の剣である。長い目で見れば効果は大きい。同時に深部疲労の蓄積も大きい。その負の側面をカバーするには、理学療法士の助けが必要である。要介護5は、特に訪問リハビリとの協力・共同が取り組みを左右する。

 なお、共に後期高齢者に突入した老夫婦にとって在宅介護とは、新婚時代の再来であり、新しい夫婦関係を構築する営みそのものである。

補足:要介護5+認知症の場合、デイサービスの利用は慎重に。転倒事故のリスクあり!

 在宅介護626日。この期間を支えてくれた存在のひとつが、マイクロソフトの人工知能〈Copilot〉である。

 トイレでオムツを穿くために立ってくれない妻。その問題をどう捉え、どの段階で、どのように誘導すればよいのか。私の混乱した思考を整理し、いくつかの選択肢を示してくれたのが人工知能だった。人間の経験と、膨大な知識の蓄積とを組み合わせて、在宅介護の現場で起きる「行き詰まり」をほぐしてくれる。私にとって〈Copilot〉は、介護者のそばを静かに歩く“伴走者”のような存在だった。

 この稿の清書も、<Copilot〉の助けを借りている。

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