2023/03/31

民主集中制と出版の自由

  日本国憲法は、出版の自由について、次のように規定している。

第二十一条
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。

 本稿では、日本共産党が、民主集中制という組織原則で、この誰にも保障された出版の自由をどこまで制限できるのか?それを、曖昧ではなくて、いつどのように制限できるのかを明瞭に示す。もって、「志位委員長への手紙」を出した鈴木元氏に対する除名処分が《不法不当なまったく乱暴なやり方である》ことを論証する。記事の長さを考慮して、次に述べる除名理由の2と3に対する反論は、別の機会に行う。

鈴木元氏の除名理由

 日本共産党京都府委員会は、2023年3月17日付で「鈴木元氏の除名処分について」との一文を公表した。それによると、除名に問われた氏の言動は次の3つだ。

  1. 党に対する攻撃を、党の外から行なった。
  2. 党攻撃のための分派活動の一翼を担った。
  3. 党に多様な政治グループの容認を求めた。

 ごく普通の一般庶民の私だが、仮にも日本共産党の党員だとする。その私が、「同じ時期にブログを立ち上げた方が話題になりますよ」とのアドバイスに従って本ブログを始めたとする。そして、「提起された改革課題を継承する理由と意義」と「民主集中制試論 『発言の自由と行動の統一』について」という二つの記事をアップ。この私の行動は、鈴木氏が除名に問われた言動そのものである。私は、遠からず、我が家のポストに日本共産党からの除名通知を発見することになる。

 私の除名理由の一つは、党規約(第3条)を「『下級は上級に従う』を強いた民主集中制の悪しき伝統を継承している」という党攻撃を、党の外から行ったことである。二つは、「同じ時期にブログを立ち上げた方が話題になりますよ」とのアドバイスに従って、党攻撃を目的とした分派活動の一翼を担う誤りを犯したことだ。三つは、ブログの記事で「党内に一定の影響力を持つ『意見の集合体』の存在を認めよ」と分派の容認を求めたことだ。

 届いた、除名通知の末尾には、

「党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない」(第5条5項)という規定を踏みにじる重大な規律違反です。

と書かれている筈だ。

除名処分に対する一般的な見方・感想

  • 党に対して改革を進言するだけで、除名されるのか?
  • 党員が、助言を受けて行動すれば、除名されるのか?
  • 党員が、討議グループの容認を求めれば、即除名か?

 誰もが、鈴木元氏と私の除名処分に対して、このような疑問を抱くに違いない。この疑問は、まったく正しい。

 デイリー新潮は、3月20日付けで、鈴木氏除名について次のように報じている。

 YAHOO!ニュースに転載された毎日新聞記事のコメント欄に、一橋大学大学院社会学研究科教授の中北浩爾氏が、鈴木元氏の除名の報に《もうため息しか出ません》と投稿している。
 《綱領や規約の解釈権を党指導部が独占し、それに基づき処分を行う。党内民主主義が十分に機能していないことを示しています。》
 (デイリー新潮の3月20日付けの記事より)

 正に、今、その「もうため息しか出ない、なにか許しがたい事態」が起こったのだ。

除名通知のトリで大活躍の第5条2項の問題点

 そもそも論ではあるが、日本共産党の組織原則(発言の自由と行動の統一)に従えば、「決定について論議することも批判することも、どこでもどういう方法でも党員には許される」のである。明らかに、「党の決定に反する意見を、勝手に発表することはしない」と定めた規約第5条2項は、守るべき組織原則から逸脱した誤りである。


 もちろん、民主集中制の模式図が示すように「発言の自由と行動の統一」の組織原則は、選挙(PLAN方針の実践)期間中に党が掲げた公約と矛盾する発言を党員がすることも、公約を批判するパンフレットを配布する行為を許していない。しかし、公示日前と投票日後は、その限りではない。

 この間、除名通知のトリとして大活躍の党規約第5条2項は、レーニンが言ったように「発言の自由を不正確に余りにも狭く規定し、行動の統一を不正確に余りにも広く規定した党員に対する言論統制基準である」ことは明らかである。

私が、「党中央への手紙」を出版したら・・・

 ところで、「発言の自由と行動の統一」は、党員が決定と矛盾する主張を含む本を出版することを許すのだろうか?例えば、私が、次のような主張を含む「党中央への手紙」を出版したら、除名に相当する反党行為なのだろうか?

 日本共産党は、綱領で「憲法第九条の完全実施(自衛隊の解消)に向かっての前進をはかる」と明記し、「自衛隊は憲法九条に違反する存在だから、その解消をめざす」という目標をはっきりかかげている。つまり、《憲法9条に基づく平和の外交戦略の成果としての》という条件付きならが《常備軍なき平和日本》を展望してる。

 この日本共産党の常備軍廃止論は、三つの点で大きな誤りを犯している。

 一つは、科学的ではないという誤り。今日、国家及び民族間の利益の対立は、先鋭化する一方だ。国家間の資源とエネルギー争奪戦は、化石燃料の枯渇と代替エネルギーへの転換の不均等性で当面は解決されないだろう。また、地球規模での温暖化の影響は、国家間に深刻な食糧争奪戦を引き起こすに違いない。このような国家及び民族間の利益の対立が、偶然を媒介として暴力的な解決に発展することは歴史が示している。その際、或る国が北方4島に軍隊を展開するなどの一触即発の状況が生まれることもありえる。だとすれば、民主連合政府の約束事だとしても、常備軍を廃止を謳うことは間違っている。

 二つは、矛盾の止揚に背を向けた誤り。憲法9条第2項は、「陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない」と戦力の放棄を明記している。その一方で、日本は、世界の軍事力ランキングで5位の自衛隊という名の常備軍を保持している。糸も撚り合わせれば紐になる。紐も撚り合わせれば綱になる。糸でしかなかった警察予備隊は、その量的変化をもって、今や立派な陸海空軍に成長した。明らかに、憲法9条と自衛隊の存在は、矛盾している。矛盾の止揚が、「矛盾する要素を、発展的に統一すること」であるとすれば、それは必ずしも、自衛隊の存在をなくすことを意味しない。憲法9条と自衛隊の発展的な統一こそが、民主連合政府に課せられたテーマである。

 三つは、統一戦線結成を目指す上での政治的判断の誤り。民主連合政府の樹立を目指す統一戦線には、非武装中立路線の支持者だけではなく、私のような自衛中立路線を支持する人々も参集する。その場合、「急迫不正の主権侵害に際してどう対応するのか?」というテーマを巡って喧々諤々の論議が起こることも予想される。この時、日本共産党は、「憲法9条と自衛隊の発展的な統一」という見地に立っていることによって、かかる争論を首尾よく解決できる。しかし、非武装中立路線に固執していれば、「まあ、その時は・・・」と返答に窮することになる。その結果、現実的な政策を探求し始めた統一戦線にあって、そのけん引役という地位を失うことにもなりかねない。

 日本共産党は、この三つの誤りを認め、「民主連合政府は、憲法9条と自衛隊の発展的な統一を目指す」という路線への復帰を急ぐべきだ。

 私の「党中央への手紙」を出版するという行為は、「発言の自由と行動の統一」の組織原則に照らせば、完全に許されることであり、決して、除名処分に当たる行為ではない。また、仮に、出版後に、選挙などの特定の政治行動が展開されても、行動の統一を逸脱した行為として非難されることはない。

 「選挙期間中も本の販売を中止しなかった」などは、言いがかりに過ぎない。第一、それは出版社の専権事項で私がタッチできる事ではない。問題なのは、選挙期間中に選挙公約と矛盾する本を意図的に出版したかどうかなのである。出版後に行われた選挙で、本の記述と選挙公約に矛盾があっても、それは何ら問題になるものではない。選挙公約との矛盾を持ち出せば、党幹部が著した本のすべてが問題になり、幹部の何人かが除名対象者にならざるをえない。

 また、私が出した著書「党中央への手紙」は、決して党を攻撃した本でない。綱領路線と矛盾する発言が党攻撃だとすれば、1904年に不破哲三氏が自衛中立路線を否定したのも党に対する攻撃になる。「いや、不破氏には、路線を修正する権限がある」と言うのであれば、綱領路線の批判的な検討は、党首及び幹部会の専権事項だと言っているに等しい。しかし、それは、まったく間違っている。民主集中制が言う発言の自由は、党員が綱領路線の批判的な検討に基づく主張・批判を行うことも含めて完全に保障しているのだ。

 結論として、私が、「党中央への手紙」を出したことで除名される理由はないし、除名と言う処分はまったく乱暴なやり方である。鈴木元氏の除名も、また然りである。

 いざとなったら「いきなり外から・・・」と持ち出される除名の印籠と化した規約第5条2項の存在は、百害あって一利なしである。党員の自由な発言を封じる言論統制基準である規約第5条2項は、速やかに廃止さればければならない。

結び

 ともかく、「1、党に対する攻撃を、党の外から行なった」との一つ目の除名理由の破綻は、明らかになった。「2、党攻撃のための分派活動の一翼を担った」、「3、党に多様な政治グループの容認を求めた」-後二つの除名理由が、不法不当であるならば、鈴木元氏の除名は取り消されなければならない。どうする日本共産党!である。

=== 推敲と校正を継続中。本稿は、適宜に訂正されます。 ===

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