我々の投資で技術日本の再建を!
序章
今日本は、二つの道の分かれ道に立っている。一つは、学歴日本から技術日本へと進化していく道。それは、言い換えれば<フィジカルAIの覇者として世界に君臨する未来への道>である。二つは、再び<30年余と予想される氷河期日本へと突入する道>である。
我々団塊世代は、今の小学生と中学生に技術日本の担い手として働ける未来を残すべきである。そのためには、我々が身を挺して消費税12.5%時代の重い扉を開かねばならない。
団塊世代は、戦後の食糧難時代を知る最後の世代である。我々は、米と豆腐と半片、卵とトマトがあれば生きていけることを知っている。同時に、伴侶が倒れた時に、我々を殺すのが物価ではなくて乏しいセーフティネットであることも知っている。
いわゆる氷河期世代の老後を見据えるならば、彼らの老後を支えるセーフティネットの構築は待ったなしである。そのためにも、我々が身を挺して新時代の重い扉を開かねばならない。
第1章、消費税12.5%の根拠
□株価6万円の意味
色々と言われているが、アベノミクスの本質は貨幣価値を35%切り下げる政策であった。
>4万円×(100÷65)=6、1538円
この線で株価4万円を今のそれに再計算すれば、約6万1千500円。つまり、株価6万円時代は、貨幣価値の投影として当然の結果であると言える。
□グローバル企業の得た特別利益
>100億円×(100÷65)=153.8億円
グローバル企業が海外で稼いだ100億円は、決算上は153.8億円と評価される。これが、株価を牽引している。
□初任給のアップ
当然にグローバル企業は、22万円×1.5=33万円という初任給の改定も可能。しかし、非グローバル企業では、それは無理。せいぜい、18万円*1.25=22万5千円が限度。
今の時代、非グローバル企業が貨幣価値の切り下げによる特別利益を手にする構造ではなくなっている。それは、賃金の経費に占める割合が20世紀とは根本的に違うからである。
この初任給に生まれた新しい構造的格差。非グローバル企業がそれを埋めるには、技術日本の担い手としての地位を手に入れる必要がある。ある小さな町工場が開発した焼き鳥の自動串挿し機が世界の数十の国へと輸出されている。この小さな成功が、点から線へ、そして面へと広がって行く。それは、自動串挿し機がフィジカルAIという頭脳を手に入れてさらに発展する様と重なる。
□最低賃金1,250円時代
20世紀型の特別利益が消えた現状では、最低賃金は1,250円を限度として引き上げざるをえない。しかし、それは自動串焼き機がフィジカルAIの頭脳を手に入れるまでのしばしの辛抱である。
□消費税12.5%という着地点
本来であれば、アベノミクスは、最低賃金=1,500円時代+消費税15%時代を気入り拓くべきであった。しかし、団塊世代の生産と流通の現場からの一斉退職は、その当初計画を打ち砕いた。時の政権は、団塊世代の退職後を読み違えた。結果として、最低賃金は1,250円に着地せざるをえない。消費税も12.5%に着地するのが現実的な選択となった。
第2章、グローバル企業と未達組
□グローバル企業の3つの特徴
任天堂・ユニクロ・ソニー・トヨタ・商社。いわゆるグローバル企業の特徴は、次の3つである。
- 売上の軸足=世界
- 利益の源泉=為替+グローバル市場
- リスク分散=多拠点・多通貨
一方、非グローバル企業の特徴は、次の3つである。
- 売上の軸足:国内
- 利益の源泉:内需+コスト削減
- リスク:人口減・地方衰退・価格転嫁困難
つまり、両者の差は、単なる「規模」じゃなくて世界を前提にしているかどうか。貨幣価値低下論で言えば、
- 達成組:円安=特別利益
- 未達組:円安=コスト増・賃上げ圧力
この構造差が、そのまま賃金格差・投資格差・生存可能性の差になっている。
□未達組と3つの方向性
ここで取りうる方向性は、ざっくり3つ。
(1)税・再分配で埋める
- グローバル企業の超過利益に対する課税
- その財源を、中小企業支援・賃上げ支援・社会保障へ
→ ただし、やり方を間違えると「日本離れ」を加速させる
(2)未達組の“準グローバル化”を後押しする
- 輸出じゃなくてもいい
- デジタルサービス、観光、越境EC、技術ライセンスなど
→ 「海外で稼ぐ窓」を持たせる政策
(3)国内市場の質を上げる
- 安さ競争からの脱却
- 付加価値型サービス・地域ブランド・観光・医療・教育
→ 「内需でも食える」構造を再設計する
例を挙げると、
- 地方の食品メーカーが、アジア向けに少量輸出
- 町工場が、海外メーカーの部品サプライヤーになる
- 地方の旅館が、インバウンドと直結する予約サイトを持つ
- 小さなIT企業が、海外のSaaSと組んでサービス提供
こういう「細いけど外に開いた線」を持てるかどうかで、円安時代の生存確率が変わる。
第3章、戦後日本の”成功の源泉”とその再構築
次に、我々は、戦後日本とグローバル企業の成功を支えた力とは何か?そして、未達組の未来をささえる力は何か。ここを解明する必要がある。
- 国立大の工学部の層の厚さ
- 企業研究所の黄金期
- 町工場と大学の技術連携
- 産業全体の技術水準の上昇
これがあったからこそ、自動車、電子、半導体、化学、機械、素材の各分野で日本は世界を席巻した。つまり、戦後日本とグローバル企業の成功をささえた力とは”基礎技術の高さ”であった。
□基礎技術の地盤改良
この”基礎技術の地盤改良”の成否こそが日本の産業構造の未来そのものに直結している。
① 商業高校:事務職養成 → DX・データ活用へ
昔の商業高校は、簿記・ワープロ・事務処理。こういう“20世紀型スキル”だった。今は完全に方向転換している。データ分析・プログラミング・マーケティング・EC運営・地域ビジネス創出。つまり、「地域の中小企業をデジタルで支える人材」を育てる方向。これは、”産業の底上げ” そのものである。
② 工業高校:製造ライン技能 → ロボット・制御・AIへ
工業高校も、昔の旋盤・溶接・電気工事だけではなく、ロボット制御・PLC・センサー技術・IoT・半導体基礎。こういう“現代の製造業の基礎”にシフトしている。つまり、「町工場の技術水準を底上げする人材」を育てる方向である。これは、ウォークマン型の”単発ヒットではなく、技術の地層を厚くする”という新しい時代の要請を反映している。
③ 高専:国家戦略のど真ん中に戻ってきた
高専は今、官僚が最も力を入れている領域である。半導体・材料・ロボティクス・海洋工学・AI・制御・電力・エネルギー。高専は、「大学の基礎研究」と「企業の応用技術」の橋渡しをする存在として再評価されている。つまり、基礎研究 → 高専 → 中堅技術者 → 産業の底上げ という“技術の川”を官僚は作ろうとしている。
第4章、AI時代の勝利の方程式
焼き鳥の串刺し装置が世界で売れる理由は単純である。
- 人件費が高い国ほど効果が大きい
- 食文化が違っても「串刺し作業」は共通
- 現場の作業を10倍効率化する技術は普遍的
- 小型で壊れにくく、メンテが簡単
- 日本製の信頼性がそのまま価値になる
つまり、“生活密着型の改善技術”は、世界共通語になる。欧米のAIは、巨大モデル・巨大データ・巨大プラットフォームである。日本のAIは、現場の癖、作業の細部、暗黙知の可視化、小さな改善の積み重ね。つまり、
新しい付加価値=f(AI×改善)
これが、日本の“勝利の方程式”である。
□「魔改造の夜」が示唆する未来
NHKの「魔改造の夜」は、
- 釣り竿を魔改造
- 洗濯機を魔改造
- おもちゃを魔改造
- 家庭用品を魔改造
全部、現場改善 × 技術 × 遊び心”の結晶。これは欧米にはない文化である。
NHKは、実はかなり先を読んでいる。日本の強みは「現場改善」、小さな技術の積み重ねが世界で価値を持つ、中小企業・高専・工業高校の技術力が未来を支える、AI時代こそ“細かい改善”が武器になる。つまり、「日本の未来はここにある」とNHKは国民に静かに伝えている。
第5章、誰が、日本の未来に投資をするのか?
もしかしたら、「新しい酒は新しい革袋に」という発想が今求められているのかも知れない。新しい思想や内容には、それにふさわしい新しい形式や環境が必要である。古い形式に新しいものを無理に詰め込もうとすると、両方とも台無しになってしまう。
□10の実験都市
トヨタ自動車の「トヨタ・ウーブン・シティ(Toyota Woven City)」と呼ばれる実験都市。これを、国家レベルで行う。具体的には、道州制を視野に入れて5ヶ所の特区を選定する。その特区に(1)海側の都市、(2)山側の都市という二つの実験都市を造る。
それは、正にAI時代の都市の在り方を模索する壮大な実験場である。同時に、日本が都市国家群の集合体へと生まれ変わる歴史的な挑戦でもある。誤りを恐れずに断言すれば、それは、日本に新しい付加価値の分配構造と循環が生まれることを約束するだろう。
□持続的な投資の流れ
誰が、日本の未来に投資するのか?この問いに対する答えは、新しい付加価値の分配構造と循環システムを創造していく当事者観点に立ってこそ見えてくる。
- 付加価値の増加は、循環サイクルの速度で決まる。
- 付加価値の増加は、循環を形成する厚みで決まる。
この付加価値の増減を決めるのが循環サイクルの<速度>と<厚み>ということに気が付けば、「誰が、日本の未来に投資をするのか?」の答えは自明である。
むすび
10の実験都市というのは、分配機構(厚み)、競争原理(速度)、循環サイクル(持続性)、この三つを同時に成立させるための“理念的な新しい器”として提起している。中国が市場経済へと舵を切った時に設定した特区という形態を日本に適用できるかどうかとは別問題である。
ある州はAI農業で成功、ある州はロボット製造で成功、ある州は観光で成功、ある州は医療クラスターで成功。これが自然に“横展開”される。州内での教育、州内での技術投資、州内での企業支援、州内での社会保障。これが“循環の厚み”を作る。
このような、新しい見方・考え方を浮上させるための理念的な器に過ぎない。読者諸氏が、10の実験都市構想から、それぞれの考えを未来に飛ばしてくれるならば幸いである。
また、付加価値の増加が循環の速度と厚みで決まるのであれば、それを支える財源の一つとして消費税12.5%があることも否定できない。大企業の内部留保がいかに大きくとも、それは一瞬にして消えることを東芝や日産の例が教えている。国民こそが、最大の投資者なのである。
10の実験都市が描く未来は、財源がなければ絵にかいた餅に過ぎない。本稿では、「我々の投資で技術日本の再建を!」と訴えて結びとする。
