国内繊維産業を襲った悲劇は、時代の逆風に晒されることが何を意味するのかを物語っている。誤りを怖れずに断言すれば、時代の追い風を帆にはらむことなしに、日本共産党が躍進する時代を拓くことはできないということだ。もちろん、時代の追い風を帆にはらむとは、日本維新の会のように時代の逆流に乗ることではない。逆流の上に吹いている時代の風を見定め、それをはらませる帆を揚げること。一体、時代の風とは?風をはらませる帆とは?本稿では、それを解き明かす。
例によって宮本哲三氏に語ってもらう。
ポスト資本主義行動委員会
我が党の3大退潮原因の3つ目である「時代の追い風が吹いていない!」状況を打破する件について報告します。ポイントは、時代の追い風が吹くのを待つことをせずに、新しい風を帆に受けるために、何をなすべきかです。まず、確認しなければならないのは、新しい風を見える化する為の方針です。今大会では、その具体化として新しい大衆組織の結成を提起します。
今、目の前で起きている社会現象を分解して、歴史の発展に沿ったものを取り出して、それらの対象に共通するものを結合する手続きを行えば、そこには《ピース アンド コモン》という概念が浮上してきます。ピース(PIECE)とは、英語で「平和」を意味しています。コモン(COMMON)とは、「共に」の意です。結論を急げば、《ピース アンド コモン》の新しい風は、我々に《ポスト資本主義行動委員会(Post-Capitalist Action Committee)》略称PCACの結成を急ぐように求めています。これは、新しい風の物質化、見える化の取組みであって、「時代の追い風を帆にはらむ」ために必要不可欠な工程です。
我が党は、綱領において、「搾取も抑圧もない共同社会の建設に向かう」ことを明記しています。幹部会は、その目標に接近する第一歩として、ポスト資本主義行動委員会(PCAC)の結成と行動を支援し、新しい風を共有する取組みに着手することを決めました。PCACと共に、次に述べる3つのNoの声を広げていきましょう。
(1)軍拡競争にNo!
2023年4月26日付けの西日本新聞は、「自民、公明両党は、国内の防衛産業育成を念頭に殺傷能力のある武器輸出を解禁する協議を始めた」と報じています。また、論壇時評では、「岸田内閣による安全保障政策の大転換が、国会よりもアメリカ大統領に報告する手続きは『絶対に許されてはならない』。敵基地攻撃能力の解禁は、軍拡という負のスパイラルを引き起こしてします」と、自民党の総裁を務めた河野洋平氏の強い懸念を紹介しています。また、宏池会会長を務めた古賀誠氏の「戦争がいかに愚かで平和がいかに尊いかは、八十年以上生きてきた中での絶対に忘れられない一番大事なものである」との言葉も紹介しています。
岸田内閣による大軍拡路線は、日本資本主義が、資本増殖の為なら対米従属をも厭わず、また戦争への加担・参加も辞さないシステムであることを示しています。これに対しては、自民党の重鎮でさえも異を唱えています。今、正に、党派の垣根を越えて、大軍拡に反対し、平和憲法を守ると同時に、資本主義という危険なシステムを乗り越えようとする新しい風が吹いています。
(2)格差拡大にNo!
フランスの経済学者トマ・ピケティは、著書『21世紀の資本』(2013年)のなかで、膨大なデータを分析した結果、「経済成長を期待して、資本主義を放置すれば、ますます格差が拡大する」と指摘。また、「少子高齢化で国力が弱まれば、国民所得に占める資本所得の比率が上昇し、格差は、さらに拡大する」(富増章成)とも警告しています。
野村総合研究所は、「2021年の日本の富裕層は149万世帯、その純金融資産総額は364兆円と推計」しています。さらに、「富裕層・超富裕層の世帯数はいずれも、安倍政権の経済政策(アベノミクス)が始まった2013年以降、増加を続けている」と指摘。トマ・ピケティは、正に、アベノミクスの結末を予言していたかのようです。
「約2.5%の世帯が日本の世帯全体の20%以上の富を保有している」という現実は、日本が紛れもない格差社会であることを示しています。教育格差、所得格差、賃金格差の厳しい現実は、その解消にまったく無能な資本主義を乗り越えようとする風になって吹いています。
(3)環境破壊にNo!
映画監督で作家の中村佑子氏は、斎藤幸平氏の「人新世の『資本論』」を、「環境汚染も気候変動も、災害も不幸も、それを対策する効果ある商品を、消費者により多く買わせようとする。それが資本主義というものが本質的にもつ、飽くなき欲望造成装置の矛盾なのだと、本書は資本主義の空恐ろしさを鷲掴みにする書でもある」と評しています。そして、「日本は明らかにグローバルサウスに負債を押し付けている『帝国的生活様式』の当事者である。将来世代のため、他国のため、地球のために、生活を変革しなければならない側の人間だ」と指摘しています。
「私たちは一つの手段でそれに近づける技術的な解決策を持ち合わせていない。私たちは社会を根本的に変革する必要がある。…気候や生態系の危機は真空の中で存在しているのではなく、他の危機と直接、結び付いている。ある人は他の人よりも価値があり、それゆえに他の人を盗み、他の人を搾取し、盗む権利があるという考え方に基づく危機だ。根本的な原因を解決せずに、この危機を解決できると考えるのは甘すぎる」とは、スエーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリの言葉です。
今、正に、気候変動による地球規模の危機が、「地球そのものがコモンだ」だという考えを生み出し、資本主義社会の変革を目指す新しい風となって世界中で吹き始めています。
PCACと掲げる二つの旗
次は、軍拡競争No、格差拡大No、環境破壊Noの旗を掲げたポスト資本主義行動委員会(PCAC)と我が党のあるべき関係について述べます。
我々にとって明瞭なことは、我が党がPCACとの間に適切な関係を築けなければ、我が党が時代の追い風を帆にはらむことは不可能だということです。その為には、次の2つのスタンスを重視して、PCACの結成に参加し、その運動の発展に尽力する必要があります。
- 互いの多様性を認め合い、違いに寛容であるというスタンス。
- 大勢が纏まって一方向を向いている中の一員というスタンス。
スタンス1を確かなものにするには、我が党の組織原則である民主集中制を民主統一制に発展させる必要があります。この発展は、我が党が、革命の前衛党として纏ってきた旧い鎧を脱ぎ去ることを意味しています。このフロントからセンターへの前進的変化こそ、《互いの多様性を認め合い、違いに寛容であるというスタンス》を不動のものにします。「党の組織原則と大衆組織のなかでの行動基準とは違う」などの方便で、旧い鎧に固執していては、PCACとの間に適切な関係を築くことはできません。
スタンス2を確かなものにするには、ポスト資本主義を目指す運動の綱領上の位置付けをはっきりとさせることです。
2023年綱領は、民主主義革命の目標を《ルールある資本主義への転換》としています。そして、「日本の社会発展の次の段階では、資本主義を乗り越え、社会主義・共産主義の社会への前進をはかる社会主義的変革が、課題となる」としています。これは、漸次的変化による社会主義への道は、幾つかの段階を通ることを見落としています。
我々は、《ルールある資本主義》を達成した後に、更に資本主義的な旧い質を減らし、共同社会的な質を増やすという量的変化の課題に取り組む必要があります。これは、量的な変化ゆえに相当の年月を要する漸次的な進化の取組みとなります。その結果、比較的に短期な質的変化である飛躍の時を迎えます。こうして、社会全体に相転移が起こり、社会主義的変革が課題となる次のステージが始まります。
本大会が解明した《民主主義革命を達成した後に、ポスト資本主義革命の長い時期を経て、24世紀以降に社会主義的変革の時代を迎える》という社会主義への道は、我が党が《当面は、何をなすべきか?》を教えています。それは、ポスト資本主義を求める人々への限りない連帯の意を表明し、その運動の真っ只中に身を置くことです。
ポスト資本主義行動委員会(PCAC)は、資本主義に対して社会主義で立ち向かうのではなくて、科学で立ち向かう運動と言っても過言ではありません。そして、その一員として思う存分に力を発揮するにも、我々は、今大会で《民主統一制の旗》と《ポスト資本主義革命の旗》を掲げるものです。正に、Show the flag!です。我が党を船に例えるならば、この二つの旗をマストに掲げてこそ、我が党は、時代の追い風を帆にはらんで再び躍進の時代を迎えることができます。
ポスト資本主義行動委員会に関する幹部会の方針をお伝えして、今大会に対する私の報告を終わります。
結び
「時代の追い風を帆にはらむ」を書き始めるとすぐに、私の頭の中を《ポスト資本主義行動委員会(PCAC)という大衆組織を結成する》という夢想が駆け巡った。それは、我々団塊の世代が、1970年代初頭に民主連合政府を夢見たことを思い出させる。 青年は、未来を信じ、未来に生きる。書き終えた今、この時代を生きる若者がポスト資本主義行動委員会に結集し、資本主義を乗り越えた次なる社会への夢を語って欲しい。そして、「夢を現実に」を一歩一歩実現していって欲しい。そういう想いを込めて、本稿をアップする。
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